ナウシカの思い出2

当時私は小学校3〜4年生だったと思う。私には2歳上の兄がいるのだが、ある日兄が「漫画のナウシカ」を買ってきた。

ナウシカに漫画があることなど想像したことすらなく、しかもあのメチャクチャ面白かった映画の続きが描かれているという。

私にとってはまさに言葉通り、夢のような話である。

漫画があるという事実に驚き、歓喜し、むさぼるように読み耽った。

今の若い子には解らないだろうが、漫画を買ってきて家で読むという行為が、当時の多くの子共たちにとっては至福の時間だったのである。

しかしここから長い長い時間を試練というか我慢を強いられることになるとは、その時は知る由も無かった・・。

当時は漫画版ナウシカは3巻までしか出ていなかった。

ドルクの地に取り残されたトルメキア兵を救い出す為にクシャナとナウシカたちが戦場の最前線に飛び込む。この漫画屈指の名シーン「サパタ攻防戦」が描かれている。

さあ、続きが気になる。トルメキア兵たちの運命は?!ナウシカはどこに行った?! 一刻も早く続きが見たい!

小学生だった私は、ドラゴンボールなどと同様に普通に数ヶ月もすれば4巻、5巻と出てくるだろうと脳天気に待っていた。

しかし待てど暮らせど新刊が出ない。小学生にとっての数ヶ月は、大人にとっての数年くらいの感覚である。

本当に本当に待っているのだが新刊が出ない。アニメージュという雑誌の存在も全く知らなかったので、情報が全く無く、ただひたすら本屋に行くたびに新刊が出てないかなと待つしかなかった。

小学校のクラスの中では私と田中君が唯一の「漫画版ナウシカ」の理解者だった。私と田中君が一生懸命クラスメイトに「漫画版ナウシカ」の面白さを力説し、一度は読むべき!と布教活動に励んでいたが、いまいち周りの反応が薄い。

なぜだ?! 「映画版ナウシカ」はみんな大好きなのである。それの続きが漫画で読めるのである。こんな素晴らしい事は無いんじゃないのか?! それなのになぜ読んでくれない?! 不思議で不思議でしょうがなかった。

そんな布教活動もむなしく、新刊もいつまで経っても出ないので、かくいう私もいつしかナウシカ新刊を諦めていた。日々の小学校生活の中でいつしかナウシカは記憶の彼方に追いやられていた。

しかしそんなある日、田中君が学校に来るなり興奮気味に私のもとにかけよって来た。

「4巻買った???」と。

4巻と聞いただけですぐにナウシカ新刊が出たと理解した。

田中君も私も当時はネタバレという感覚がなく、無邪気に私に4巻のストーリーを語ってくれたのである。

クシャナの兄たちが登場すること、クロトワが瀕死の重傷を負うなど。話を聞いてるだけで血沸き肉躍る。興奮しっぱなしで居ても立っても居られない。

学校から帰るなりすぐに本屋へと漫画を買いに走った。

恐らく小学生時代最高の至福の時間を家で過ごした。内容に大満足した事は言うまでもない。

さあ一刻も早く続きが見たい! 次の5巻はいつ出るのだ?

小学生の私の予想では、恐らく4巻は何かトラブっていて、たまたま発売が遅くなったんだろう。だから5巻はすぐに出るだろうと、何の根拠もなく楽観していた・・。

しかしまたもや同じように、長い長い長い年月を待つことになった・・。

完結の7巻が出る頃には、少年はいつしか大人になっていた。

「ナウシカ」と「AKIRA」は少年時代の私に忍耐という事を教えてくれた漫画である。